Activity Report

【B Lab 研究員紹介】No.9 AKI(野口 正明)さん

2023.3.14

様々な業界の第一線で活躍する「B Lab研究員」を紹介するシリーズ。今年度バーチャル研究室を開講されたAKI(野口正明)さんに話を伺いました。早速お話をお伺いしていきましょう!

AKI(野口 正明)
とんがりチーム®︎研究所 主宰・創発デザイナー
・チームメンバー一人ひとりの想いや持ち味が解き放たれ、重なり合って、思いもよらない物語りが自走するチームづくりの専門家。
・日・米の大手企業にて人事マネジャーを経て、2006年より対話型の組織・人財開発コンサルタントへ。現在は「ひとり起業家」として、縦横無尽にチームを組み、さまざまな組織形態における自走チーム化支援を続けている。
・社会を持続可能なカタチへ移行させていく市民運動トランジションタウン日本第1号のまち藤野へ2013年末に移住。NPOふじの里山くらぶの副理事長を務め、住民起点の「気候変動の藤野学」をリードし、2020年度気候変動アクション環境大臣表彰受賞した。

Q. AKIさんの普段の活動について

  チームやコミュニティなど集団にかかわるメンバーのそれぞれ異なる特性が掛け合わさることで、個々人の総和を超える圧倒的なエネルギーや結果が生まれる=「創発」の支援をしています。企業組織や地域コミュニティなど、組織形態によらず創発が生まれる環境を共に創り出しています。具体的には、いわゆる「ファシリテーター」の役割です。心理的に安全な場を確保したり、言いにくいことも言えるように促進するのは当たり前ですが、プロとしては、自由自在な対話から生成される「意味の流れ(文脈)」を探り、場に投げかけることに命を懸けています。

Q. 「創発」というテーマに着目したきっかけは?

  ファシリテーター業界では、従来なかった新しいアイデアを得るには、「発散と収束」が大事だと言われています。たしかにそうなんですが、 実際に対話の現場にかかわっていると、何かが決定的に欠けている感じがしていました。それが「創造的な混沌」です。すごいひらめきが生まれるとき、その前の溜めがかならずあることに気づきました。計画的に作り出すことはできませんが、それが起きやすくし、突き抜けていくメソッドを磨いてきました。実は、そのあと、Sam Kanerが提唱する「参加のダイヤモンドモデル」を知りました。この図のとおり、創発というのは、あるテーマで考えを発散させた後、「GROAN(うめき声)ゾーン」と呼ばれる混沌をくぐり抜けるというものだと。僕の考え方とピタリ合致しました。それを経団連から2015年、世に問いかけた本が『組織の未来をひらく創発ワークショップ』です。

Q. 活動を進める中で、ぶつかった壁は? 

  特に企業現場に受け容れていただくのに苦労しました。目標を実現するための緻密なプラニングをして、PDCAを徹底的に回していくという発想とは、相容れませんから。そのやり方では前に進めなくなっているリアリティを感じてはいらっしゃいましたが。そこに出現したのがコロナ禍です。従来の常識がまったく通用しない世界。出社することもかなわない中、オンラインだけで仕事ができるのか?など、未体験ゾーンの連続。その状況で突き抜ける個やチームが出てきました。答えはないという前提で、一人ひとりが知恵を寄せ合って、なんとか最善解を探って試行錯誤していく。統制型のチームでは決してやれないことが、自走するチームではできたわけです。実を言えば、企業に創発は無理かなと諦めかけていたときでした。僕が9年前に移住した藤野というまちは、自律分散型の動きに満ちた創発タウンなんです。それでコミュニティの方に実質的に軸足を移しつつあった中で起きた企業社会における一部の変容は福音となりました。今がチャンスと捉え、ここ3年ほどは企業に対する創発支援に傾注しています。

Q. バーチャル研究室でやっていることは?

  「ひとり起業家」という、一般的な起業家像とは異なるあり方=自分の内側から湧き上がってくる欲求を身の丈サイズで実現する働き方を提起し、3人のひとり起業家にインタビューするプロセスを通して、その本質を明らかにしていくデザインとしました。ラボ生には自分たちで質問を考え、インタビューしてもらいました。3人の起業家はまったく違うタイプの人選をしたのですが、ラボ生たちは表面的な差異に惑わされず、チームの力で見事に本質をあぶり出しました。まさに創発的な動きが起きたと言えます。

Q. 今後つくっていきたい社会は? 

  創発が蠢く(うごめく)社会をつくりたいです。春になると地中からムカデやミミズ、アブラムシなどの虫がたくさん現れ、動き回る様子がこの漢字の語源のようですが、企業、自治体、NPO、地域コミュニティ、学校、医療・福祉機関などなど、あちこちで自律的な企みがゲリラ的に生まれるイメージですね。ひとりのカリスマリーダーの「思いのままに」を超える、「思いもよらない」集合天才チームをたくさん創り出そうと思います。

 


Writer Profile

吉田 凌太 (慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科修士課程)
東京都生まれ、東京都育ち。慶應義塾法学部政治学科を卒業直前に、沖縄県国頭村に移住した際に慶應義塾大学院メディアデザイン研究科の存在を知り、試験を受け入学。研究として自律分散型組織の構築に尽力し、出身である世田谷区で地元活性に取り組むなど、自身の欲求に赴くままに活動する。