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【iU B Labプロジェクト紹介】阿部川久広学部長が語る「BAT Lab」の全貌と未来:ビジネス・アート・テクノロジーが交差する最先端の取り組み

2025.7.14

iUの研究所B Labでは、教員が主導する多彩なプロジェクトが日々進行しています。それらの取り組みを広くご紹介するため、インタビュー形式でお届けする企画がスタートしました。

記念すべき第1回は、阿部川学部長にお話を伺いました。阿部川学部長が率いる「BAT Lab」は、ビジネス、アート、テクノロジーというiUの根幹を成す要素を横断する、多岐にわたるプロジェクトを展開しています。今回は、その具体的な取り組みと未来への展望についてB Lab長の石戸奈々子が、深掘りします。

動画はこちら

阿部川 学部長が率いる「BAT Lab」とは?

石戸:本日は、iUの研究所B Labプロジェクト紹介動画として、GoさんことiU学部長の阿部川さんにお話を伺います。早速ですが、Goさんのプロジェクト名を教えていただけますか?

阿部川学部長:はい、ご紹介ありがとうございます。阿部川と申します。プロジェクト名は非常に長く、正式には「グローバルビジネスアート&テック」というのですが、長すぎて覚えられないので、「BAT(バット)」と呼んでください。BATは「ビジネス」「アート」「テクノロジー」の頭文字を取ったものです。iUあるいはB Labの中で、私のプロジェクトは最も裾野が広い、悪く言えば「何でもあり」という特徴があります。

石戸:ビジネス、アート、テクノロジーとなると、確かに世の中のあらゆる要素を包含しそうですね。具体的にはどのようなミッションで、どんなことをされているのでしょうか?

阿部川学部長:はい。キーワードはビジネス、アート、テクノロジーですが、いくつかの塊があります。今日はその中から主に4つのプロジェクトについてお話ししたいと思います。

BAT Labの多様なプロジェクト

1. グローバルプログラム:世界トップレベルの大学院との連携による人材育成

阿部川学部長:まず1つ目は、BATと関係ないのでは?と言われそうですが、教育機関であるiUとして、「教育」という大きな傘の下にあるプロジェクトです。

この夏から、サンダーバード経営大学院とiUとの短期プログラムを8月と11月に実施します。これは2日間の短期エグゼクティブプログラムですが、将来的にはMBA(経営学修士)取得に繋がることを目指しています。今回のサンダーバードとのプログラムは、「エンターテイメントビジネスのプロデューサーを育てる」というテーマです。

石戸:アリゾナ州立大学サンダーバードグローバル経営大学院は、グローバルビジネスやグローバルマネジメントが専門の大学院なので、日本のコンテンツ業界の課題を捉えた提携先として最高ですね。この2日間コースの先に、どのような展開を考えていらっしゃるのでしょうか?

阿部川学部長:むしろ、実は長期的な構想の方が先にありました。まずは「エグゼクティブ向けにダイジェストしていち早く提供しよう」というのが今回の2日間プログラムです。長期にわたるプログラムでは、マネタイズ、DXAIなどの戦略に加え、財務や法律、交渉術とさらに、ハリウッドモデルに基づいたビジネスのやり方を学びます。ディズニー、FOXNetflixといった業界の卒業生から直接話を聞き、現場で学ぶ機会も提供されます。

iUではサンダーバード以外にも、すでにミラノ工科大学(POLIMI)や、今後はハルト・インターナショナル・ビジネススクール(Hult International Business School)などともプログラムを実施します。

石戸:まずはトライアルとして2日間のコースを実施し、それをMBAコースとしつつ、産業界と密接な関係を構築していくということですね。今回のアリゾナ州立大学サンダーバードグローバル経営大学院との取り組みはコンテンツ分野のプロデューサー育成がテーマですが、他の大学院との連携は、どのような分野を考えていらっしゃるのですか?

阿部川学部長:

  • ミラノ工科大学:工科大学であるため、AIIoTといったテクノロジーを活用したビジネス、「テクノロジーのビジネス化」が中心になります。
  • ハルト・インターナショナル・ビジネススクール:ロンドンを中心に世界中にキャンパスがあり、「グローバル視点でのビジネスの進め方」を強く打ち出すプログラムになるでしょう。

さらに、アジア地域、例えば台湾、韓国、中国といった地域にも広げていきたいと考えています。先日開設したB Lab台湾とは既に提携しており、台湾の明新科技大学Minghsin University of Science and Technology: 通称MUST)という半導体技術者の育成に関しては有数の教育を誇る大学ともプログラムを進めています。

石戸:B Labも国内外に拠点を拡大していまして、実はボローニャにも拠点があります。ボローニャは子ども向けのブックフェアが有名ですが、私たちも世界中の子ども向けのコンテンツが詰まる国際デジタルえほんフェアを日本で実施しているため、ボローニャと連携したいと話をしているところです。世界中で楽しい取り組みが広がるのが楽しみです。

阿部川学部長:ありがとうございます。実は来週628日には、墨田区の「ブックナイト」というイベントにiU株式会社Luupさんと一緒に出展します。これは将来的にボローニャ大学と行うブックフェアの一つの形になると思います。B Labが関わるので、デジタル要素を強く出した新しい形でやっていきたいです。

石戸:国内外問わず、様々なプレイヤーとの連携を深める場がB Labでもあります。産官学の共創によりプロジェクトをさらに拡大していきたいと考えています。

2. スマートモビリティ「LUUP」「Striemo」:実証実験からデータ活用、グローカルな社会課題解決へ

石戸:いまLUUPの話があがりましたが、「LUUP」もBAT Labのプロジェクトの一つですね。次の話題であるLUUPに移りたいと思います。

阿部川学部長:はい。皆さんもご存知のキックボードの「LUUP」、そして三輪のキックボード「Striemo」という商品があります。設立5年となる株式会社Luupさんとは、iUは設立当初からプロジェクトを共にしてきました。

初期のプロジェクトは、キックボードそのものの認知度向上と普及啓発が中心でした。iUキャンパスやB Labで試乗会やアンケートを実施し、「危ないものではなく、楽しくて面白い乗り物だ」ということを普及する活動を続けています。

現在、中心になっているのは、Luupさんから一部開示いただいているデータの解析です。例えば、LUUPに乗れる場所(ポート)をどこに作るのが最適か、あるいは安全性を強調するためのマーケティングメッセージをどのように発信するべきか、といった課題に取り組んでいます。

株式会社ストリーモさんに関しては、墨田区と連携して実証実験を行っています。区の職員の方々に試乗していただき、三輪のキックボードが最も便利に利用できる方法などをアンケート調査し、ビジネスデベロップメント的な提案を進めています。

石戸:実証フィールドの提供、普及啓発、そしてデータを活用した戦略構築をアカデミズムが担いながら、産学連携を推進されているのですね。Luupさんやストリーモさんの反応はいかがですか?

阿部川学部長:おかげさまで大変良い反応をいただいています。Luupさんの場合、普及が進むと事故も増える可能性がありますが、乗り方による原因が多いため、私たちは年代別に合わせたメッセージの出し方を共同で検討しています。また、私たちの学生のデータ収集や、「こういう機能があったら良いのでは」といったプロダクトへの提言も行っており、その一部が反映された商品が今後登場する予定です。

石戸:産業界にも大学の公的な役割をうまく活用いただいているのですね。B Labとしては、今後も大学と企業の良い連携の仕方を探求していきたいと思います。ストリーモさんの方では墨田区との連携も興味深いですが、グローバルとローカルの関係をどのように位置づけ、付き合っていらっしゃるのですか?

阿部川学部長:よく「グローバルなのに墨田区?」と言われるのですが、私がいつも提唱しているのは「グローカル」です。墨田区のように高齢者が多く、公共交通機関の採算が難しい地域で、LUUPStriemoのような「第三のモビリティ」を使ったモデルが成功すれば、それは東京だけでなく日本全国に展開できます。

このノウハウは、モビリティが混在するヨーロッパが本場ですが、逆に言えば、日本は高齢化社会なので、ここで得たノウハウはむしろ世界中の同様の課題に通用すると考えています。日本で生まれたノウハウを今度はグローバルに展開したり、Luupさんやストリーモさんが海外展開する際のお手伝いができればと思っています。グローバルだから、ローカルだから、という視点ではなく、もっと大きな、長期的な視点で「人類にとって良いこと」を追求したいですね。

石戸:日本は海外から技術や文化を輸入して改善、洗練していくのが得意でもあります。課題先進国である日本がモビリティの設計をどうするのか、注目していきたいです。

3. アート&テクノロジー:企業と連携する「ビジネスとしてのAIアート」

石戸:次はアートとテクノロジーの分野ですね。

阿部川学部長:私自身のバックグラウンドはAppleやディズニーにいた経験があり、これらの企業は商品を作る際にアートやデザインの考え方を最初から取り入れています。私にとってアートは特別なものではなく、ビジネス、企業と一緒にアートを広めていけないかということを中心に考えています。

例えば、去年「ちょもろー」という毎年行われる私たちの公式イベントで発表した「パラレルアート」という作品があります。これは音に絵が反応したり、人が音を出したりすると絵が変化したり、音楽に合わせて映像が変わったりするインタラクティブな作品です。これはまさにテクノロジーならではの表現です。

このようなテクノロジーとアートが合体した作品を、例えばレストランやバーなどの企業と一緒に販売したり、企業戦略のお手伝いをしたりすることを考えています。iUエントランスやホワイエ、あるいはキャンパスを丸ごと美術館のように活用し将来的に美術館のように活用し、作品を展示したり、作家が利益を出せるようにオークションを行ったりすることも検討しています。

石戸:インタラクティブな作品は、B Labが推進する「カルチャーデザインプロジェクト「RE:CULTURE」」とも繋がりますね。アートだけではなく、ファッション、音楽、映像といったカルチャー分野にAIやブロックチェーンといった最先端技術を融合させ、日常生活に溶け込む「ちょっと先の未来のお洒落」をデザインするプロジェクトです。B Labとしてもアート領域はより一層力をいれていきたいと思っています。また、いまお話があったちょもろーというのは、私が実行委員長をしている、毎年一回開催しているイベントでして、「ちょっと先のおもしろい未来」を描く企画です。遠い未来ではなく、少し先の未来、テクノロジーを活用した、わたしたちの生活をより豊かにしてくれる楽しい未来を描きてみようという企画です。iUもちょもろーの中で、iUtopiaという1年間のプロジェクトの成果を社会に対して発信していく展示をしています。そこで、そのインタラクティブアートを見るだけではなく買うこともできるかもしれないということですね。また、アートといいますと、最近ではアート思考という考え方も、広がりつつあります。Goさんのプロジェクトはアート思考の普及にも取り組んでいますか?

阿部川学部長:はい、当然そうなるだろうと期待しています。企業とのプロジェクト化を推進し、新しいプロダクト開発や新しいマーケティング手法をアート的視点でお手伝いできればと思っています。例えば以前、セゾンテクノロジーさんと、新しいプロダクトのアイデアに関するアイデアソンを行い、新機能のご提案をしました。また毎年行われる「HULFT Technology Days」を学生が企画、実行の面でお手伝いもしています。

B2Bのソフトウェアであっても、使いやすさやデザインは重要であり、アート思考を取り入れられないかと企業さんと話し始めています。

4. 新しいリテール体験の創造:データ解析とソフトウェア開発

石戸:あらゆる企業が連携できる取り組みですね。3つ目のアートのお話が終わりましたが、最後、4つ目ですね。

阿部川学部長:はい、4つ目はテクノロジーに関する話です。これはまだお話しできることが多くなく、NDA(秘密保持契約)のため全貌をお話しできないのですが、ある企業と、リテールのテクノロジーに関してお話を進めています。彼らは物理的な店舗とオンライン販売のデータを解析し、新しいリテールの方法を提案する企業です。

この企業のいくつかの店舗の一つが海老名にあり、日本ではなかなか手に入らないアジアの食品や食材を販売しています。私たちは彼らと共同で購買データの解析や商材の提案を行う予定です。テクノロジーの分野では、これが今後最も大きな話になるでしょう。

石戸:iUのキーワードである「情報」「経営」「イノベーション」がまさに合わさったプロジェクトがスタートするのですね。

さらなる連携と社会貢献への展望

阿部川学部長:はい。今回お話しした以外にも、実は10個ほどのプロジェクトが動いていま す。例えば、Luupさんやストリーモさんのような新しいモビリティは、ライドシェアなど他のモビリティと連携したり、電気自動車とどう連携するか、といった話にも発展できます。

アートの分野では、ヘラルボニーさんとご一緒にiUの中で展覧会を開催し、作品を販売できないかという話も始めています。また、ゼロ円でフィリピンのセブ島に留学できる「ゼロ円留学」というプロジェクトでは、学生も一緒になって日本やセブ島で仕事を作り出すアイデア出しをしています。

iUの大きな教育ミッションは、ビジネスとテクノロジーをグローバルで学ぶことです。それに合致する、あらゆる可能性を秘めたプロジェクトを常に追求していきたいと考えています。

産業界・社会の皆様へのメッセージ

石戸:盛りだくさんのお話を、短い時間でお話いただき、ありがとうございます。最後に、産業会や社会の方に向けて一言メッセージをください。

阿部川学部長:何よりも、iUB Labと組む一番の利点は「価格が適切」であるということです。私たちは研究機関として、最大の利益を追求するよりも、多くの人々に伝え、社会に実装することを最も大切にしています。

そして、iUは墨田にキャンパスがあり、B Labは竹芝に拠点があります。これらの場所を丸ごと全て使えるというのが私たちの最大の強みだと思います。

「こんな馬鹿げたことができないか?」「みんなに断られたアイデアをビジネスにしたい」といった実験や実装のアイデアがあれば、ぜひお気軽にご連絡ください。年に2回開催されるiUB Labの公式イベントの「ちょもろー」や「マルシェ」に来ていただければ、直接お話しする機会もございます。

石戸:リーズナブルに面白い価値を創出できるということですね。面白い未来を共に創るB Labに興味を持っていただいた産学の皆様、ぜひご連絡をいただければと思います。本日は大変貴重なお話をありがとうございました!

阿部川学部長:どうもありがとうございます。よろしくお願いいたします。