EVENT REPORT
B Lab Online Salon
第3回「DAOで実現する新しい地域おこし」・前半
B Labは2024年8月23日に、岡部典孝氏(JPYC株式会社代表取締役、一般社団法人ブロックチェーン推進協会理事)を招いて、「DAOで実現する新しい地域おこし」と題したオンラインサロンを開催しました。サロンの前半では、岡部氏が青ヶ島で実践しているDAO(自律分散型組織)を活用した地域おこしについてお話しました。後半ではB Lab所長の石戸奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が行われました。その模様を紹介します。
ポテンシャルを持つ青ヶ島
青ヶ島で実践しているDAOによる地方創生について紹介します。まず、青ヶ島は人口がわずか160人程度の絶海の孤島です。東京から飛行機か船で八丈島へ行き、八丈島からさらに南に70kmくらい行くと到着します。つまり本州から直接行けない二次離島です。
最初に青ヶ島を訪れたのは2021年のコロナ禍のときで、リモートワークが浸透する中で地方への移住を検討していた頃でした。当時、大学でDAOをテーマに研究もしていて、その中で「人口が180人以下のところであれば、みんなが顔見知りになれるので、DAO的な暮らしをしているのではないか」という仮説があり、一度、行ってみようと青ヶ島に行きました。
訪れてみるとネットも速いし光ファイバーも引いてあり、ご飯も美味しく景色も綺麗、星も美しく、「ここは天国か」と思うほどでした。ここに移住しようと、2020年末頃に住民票を移して青ヶ島の住民になりました。B Labの青ヶ島もすでに設置されています。
この青ヶ島でDAOに取り組むにあたり、「DAOヶ島」というネーミングを思いつきました。青ヶ島でDAOをやるのでDAOヶ島です。この名前も商標を取得し、今後、広めていこうと思っています。
自律分散型組織DAO
DAOとはそもそも何か。DAOは自律分散型組織とされています。代表者がいない、あるいは中央管理者がいない組織です。特徴的なのは、ガバナンストークンのNFTや暗号資産を利用して、それを持っている人が投票して意思決定をすることです。組織運営に関する透明性が高く、みんなで所有する、共有するという考え方が基本にあります。
DAOのメリットは、資金調達がしやすくなることです。世界中から資金調達できる可能性があります。また、働いたインセンティブが明確になります。例えば草刈りを1回したら1トークンもらえるとすると、トークンをたくさん持っている人は草刈りをたくさんしたことが可視化され、草刈りトークンの売買もできます。デメリットは法整備が整っていないことや、施策などを投票で決めるので提案して投票して熟議すると、どうしても実行に時間がかかってしまうことなどです。
DAOにはさまざまな事例がありますが、ビットコインも一種のDAOだと考えています。ビットコインでは、「ビットコイン株式会社」があるわけでも、そこに代表取締役がいるわけでもありません。それなのに百何十兆円という時価総額がついて、取引が止まらずに動いているという意味では興味深い事例です。
DAOでは、「資金を集めてどう使うか」を、基本的には「提案」と「投票」で決めていきます。例えば、地方創生で空き家再生を手がけるとき、どの空き家を再生するか、どのように再生するのかということを投票で決めます。DAOはフラットで民主化されている組織です。これまで階層構造が当たり前で誰かに命令されて仕事をする、タスクをこなすということに慣れた人には、違和感があるかもしれません。さまざまなことがDAOのメンバーによる投票で決まっていき、サービスは分散型で自動処理されます。情報の公開度も従来の組織よりは高く、ほとんどすべての情報が公開されて、それをもとに提案したり投票したり、意思決定をしたりするのがDAOです。DAOは、地方での町おこしと相性が良いようで、日本全国のさまざまなところでDAOの話が少しずつ出始めています。
NounsやCityDAO
DAOの事例をいくつか紹介します。1つは、NounsというDAOです。これはNTFを1日1枚売り、集まったお金の使い道についてNFTを持っている人が投票して決めるというDAOです。1日1枚売ることで、だんだん参加者を増やすという効果もありますし、お金も自動的に集まっていきます。入札で売られるので、Nouns自体に人気が出てくると、NFTの価値が上がり、Nouns自体の人気がなくなってくるとNFTの価値が下がります。NounsのNFTの価値を上げたいのであればNounsの投票に参加して、集まったお金を有意義に使いましょうとみんなが考えるようになります。運営は自動化され、今でも1日1体ずつNounsが売られ続けています。
次はCityDAOという事例です。アメリカでDAOの法整備がいち早く進められたのがワイオミング州で、そこに土地を共同購入して、どのように使っていくかをNFTを持っている人たちの投票で決めるとしました。DAOは法整備が進んでいないのが大きなデメリットで、法整備がされていないと組織が任意団体になってしまい、無限責任という重い責任が参加者に課せられてしまいます。それを解決するために、ワイオミング州は思い切った法改正でDAOの法人格を認める「DAO法」を制定し、DAOを誘致しています。
日本独自の合同会社型DAO
日本でも2024年4月22日に「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」が施行され、DAOに関する規制が緩和されました。合同会社型DAOが解禁されました。
合同会社型DAOが解禁されたということは、いわばトークン式会社のようにトークンを持っている人が投票で運営に関することを決められる合同会社が解禁されたということです。合同会社なので代表者は決めて登記しなくてはいけないという制限があり、厳密にはDAOではないという意見もありますが、DAO的な組織運営を法人格を持った形で行うことができます。
合同会社では株式ではなく社員権を発行しますが、これをNFTとしてトークン化して業務執行社員とその他の社員とに分けて付与することができるようになっています。業務執行社員は会社の業務を直接執行する社員で、従来の合同会社の社員権と同じ権利を持っています。その他の社員はただNFTを持っていて運営には直接関与しないが、利益の分配を受けられる社員です。これらが合同会社型DAOの特徴です。規制緩和はされましたが、まだ宿題があり、最終的にはもっと匿名性の高い形で入れるようにしようなど、立法が必要なことが残っており、法改正の動きがあると聞いています。
合同会社型DAOでは、収益分配制限付きという配当の上限を決めたDAOの社員権トークンを二項有価証券として業務執行社員が売ることができるようになりました。つまり、「限定付きですが配当ありのNTF(証券)を自分で売ることができるようになった」のです。
これまでも株式会社では資金調達のために株式を買ってくださいと依頼することはできましたが、49人までしか声をかけてはいけないというのが原則でした。また、1億円以上集めるのはとても大変な手続きが必要で、現実的ではないとされていました。今回の規制緩和で資金を集めやすくなり、499人までは集めて良い、集めた資金の半分を有価証券に投資しなければ499人以上集めても良いなど緩やかになっています。 その結果、DAOのメンバーと非業務執行社員のトークンを持っている人と業務執行社員と3段階の階層ができ、トークンに基づくDAOの運営について、定款で定めてそれに則って運営することが認められました。これによってある程度ガバナンスを自動化することができます。
資金調達をする際に、合同会社型DAOが適している規模は、5億円から数十億億円くらい集めるようなプロジェクトです。499人集められるので、499人が100万円出しても良いと思えるような魅力的なプロジェクトであれば、5億円くらい集めて合同会社として運営することができます。もっと魅力的なプロジェクトで、例えば1000万円を499人が出してもいいというプロジェクトだと、50億円くらい集まる可能性があるということです。
地方創生でDAOを活用
地方創生で地域おこしをする際に、お金がない自治体が非常に多いです。その場合、民間のお金を使って地域おこしをしないといけないのですが、民間のお金も集まりやすいところと集まりにくいところがあります。東京都の都心でビルを建てる場合、REIT(リート)を使って資金を集めましょうという話はしやすいのですが、地方の資産、例えば廃校を再生したい、あるいは空き家を再生したいという場合に有価証券で集めようとすると大変です。自己資金でやるには重いので、合同会社型DAOをお金を集める受け皿として使えるのではないかと言われています。
もうひとつ合同会社型DAOの良い点は、地方の人に入ってもらいやすいことです。例えば空き家のDAOでしたら、空き家の改装を手伝ってくれた人にトークンを付与できるので、お金を払わなくてもDAOに参加することができます。部外者がお金だけ出して開発するとなると地元の協力が得られなくて関係が悪化するということもありますが、地元の人も参加しているDAOであれば、一緒にこの空き家を再生していきましょう、この廃校を改造してみんなが集まれる施設を作っていきましょうなど、地元の人も参加してうまく進んだら配当がもらえるという設計が可能になります。
これは、新しい地方創生の形になるのではないかと思っており、青ヶ島でも今、検討しています。例えば水産加工場がないので、水産加工場をDAOで作れないかや、泊まるところがないのでDAOで宿泊施設を作ってDAOのメンバーで運営していけないかなど、そのようなことをディスカッションしています。
青ヶ島の大きな特徴としては、独立した村であることです。つまり地方自治体として予算もあり村長もいて、村議会もある。小中学校もあるということで、一通り揃っているので実証実験をするには向いている場所だと思っています。だからこそB Labも設置されました。
自治体には法人格があるので、色々な実証実験をやるときに「お金を集める導管」としても可能性があると個人的には思っています。まだ村議会の人や村長に軽いアイデアをお伝えしている段階で、実現まではもう少しかかると思うのですが、私が提案している仕組みはふるさと納税NFTという仕組みです。
ふるさと納税をするとNFTをお返しして、NFTを持っている人が投票できます。あるいはNFTを持って青ヶ島に来ると、割引が受けられるなどもできます。「DAOヶ島プロジェクト」にふるさと納税してくださいと呼びかけることで、ふるさと納税のお金がDAOのプールに流れてきて、DAOのプールのお金の使い道はふるさと納税の返礼品のNFTを持った人が投票で決めるという仕組みです。
例えば、青酎が好きな人は来年もっと青酎を作ってくださいと要望をするかもしれないですし、塩が好きな人は塩を使った干物をもっと作ってくれないかと提案ができます。それが採用されると次の年のふるさと納税の返礼品に追加されて、NFTをもらうとまた投票もできて、特別な青酎と引き換えられるなどできると面白いと思いますし、この仕組みは全ての自治体で同じことが可能なはずです。ただ、自治体ごとにDAOを作ろうと思うと、それぞれの自治体に新しい組織や働き方に詳しい人が必要で、それはなかなか難しいと思います。もちろん、今日この講義を聞いている皆さんが実際にそういうコミュニティマネージャーをすることは可能だと思いますが、自治体は1800くらいあるので厳しいです。
地域おこし協力隊でDAOを運営
それをカバーするために最近出てきている動きとしては、地域おこし協力隊という仕組みを利活用して、地域おこし協力隊でDAOのコミュニティマネージャーが地域に移住して、そこで地元の人と交流しながらDAOのコミュニティを立ち上げて運営していくという方法です。
「あるやうむ」というNFTによって地方創生を推進する会社があり、JPYCの元社員が代表をしています。JPYCも出資して応援しているのですが、こうした会社も登場し始めており、かなり引き合いがあるようです。どこの自治体も独自予算がなくて困っています。自治体によっては97%ぐらいは使い道が決まっていて、ようするに使える予算がないのです。そういうときに、ふるさと納税でお金が入ってくると、とても独自の政策がやりやすくなります。ただ、その政策で需要と供給が合ってないということがあり得ます。
例えば、ふるさと納税の新しい返礼品を作りましょうといっても、皆さんが欲しがるものを作らないと売れないし魅力がないものを作っては税金の無駄遣いになってしまいます。そのときに、実際にその返礼品を欲しい人がアイデアを出せると良いのではないかと思います。あるいは、納税している人は通常自分の住所に納税して、通勤している場所には納税していないのでそこでは選挙権もなく、意見が届きにくいわけです。住んでいなくてもよく居る場所ならば、そこに意見を言う権利があっていいはずです。そのような場合にふるさと納税をすると返礼品でNFTがもらえて、提案ができてそれが投票で採用されるというようになると地方議会もアップデートできると思います。地方議会もやはり限られた人数、限られた時間でディスカッションしていると、細かいところまで話しきれないと思うのですが、そこをカバーできる可能性があるアイデアだと思っています。
まとめますと、合同会社型DAOという仕組みをはじめとしたDAOを上手く使うことによって、地方創生で独自のお金を集めやすくなります。あるいは独自のメンバーを集めやすくなると思います。今後さらに成長が期待される分野と思っています。JPYCもステーブルコイン会社として、DAOでお金を集めたり、ステーブルコインでNFTを売買したり、ふるさと納税でステーブルコインが使われるようになるなど、新しいWeb3の世界コミュニティの発展に貢献できたら良いと思っています。
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