EVENT REPORT
B Lab Online Salon
第3回「DAOで実現する新しい地域おこし」・後半
B Labは2024年8月23日に、岡部典孝氏(JPYC株式会社代表取締役、一般社団法人ブロックチェーン推進協会理事)を招いて、「DAOで実現する新しい地域おこし」と題したオンラインサロンを開催しました。サロンの前半では、岡部氏が青ヶ島で実践しているDAO(自律分散型組織)を活用した地域おこしについてお話しました。後半ではB Lab所長の石戸奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が行われました。その模様を紹介します。
Q&A
石戸:非常に先進的な取り組みで、たくさん質問が来ています。まず、「青ヶ島の住民の方々がDAOの概念をどのように受け入れているのか、その実態を知りたい。初めはDAOについて多くの人は知らなかったと思いますが、その教育や啓蒙活動について具体的にどのように取り組んでいるのですか」という質問です。
岡部:DAOと言っても伝わらないので、最初はデジタル青ヶ島と言い続けました。光ファイバーがちょうど青ヶ島に引かれてインターネットが高速化されて、Youtubeの「青ヶ島ちゃんねる」も人気になり始めた時期だったので、デジタルを使えばもっと良くなりますよと言いました。
例えば高校がないので、みんな島から出ていくのですが、インターネット授業をやれば青ヶ島でも授業を受けられますし、大学も遠隔授業で卒業できます。実際に今、慶應大学SFCの学生で青ヶ島の住民もいて、行ったり来たりしながら卒業しています。デジタルを使えばもっと豊かな暮らしができるようになりますと伝えました。
もうひとつは、青ヶ島は人口が減少していて無人島になる危機があります。人口が150人というのは、コミュニティを維持するための最小の人数に近いので、これを下回ってしまうと維持しにくくなってきます。ただ、国境の島なので、国としては無人島にしたくない。村長も住民の数を増やそうとしています。例えば住宅を作って移住者を増やしていこうとしているのですが、仕事は限りがあるので、リモートワークで稼げる人は、インターネットの回線も速いので来てもらえるのではないかということで取り組みをすでに始めています。あまりDAOとは言わずに、村の人口を増やしましょう、新しい人に移住してもらいましょうといった話から入りました。
石戸:島民が受け入れやすい言葉からスタートしたのですね。その後、時間も経ち、「DAOヶ島」という言葉も発信され、DAOの概念に関する理解は島民の間で広がっていますか。
岡部:そうですね。事業をやっている方はご存知で、自分で調べたりしています。DAO関係者が旅行や交流で来ることもあるので、それで人から聞いたというのはあるようで、塩工場の人はかなりDAOに詳しかったです。早稲田のビジネススクールでDAOの授業やっていた教授やDAO関係者なども来たりしました。DAOといっても、今までの村の運営とあまり変わらないなという意識の人もいます。
石戸:コンセプトを明確に打ち出しつつ、新しいコトにチャレンジし続けている姿が、日本中から新しいことに挑戦したいし人を青ヶ島に呼び込むことにつながっているようにも感じました。岡部さんの取り組みが青ヶ島に及ぼした効果についてもう少し伺いたいです。例えば他の自治体に横展開する際に、青ヶ島の変化に関してどのようにPRされますか。
岡部:人口の減少は辛うじて食い止められていると思います。自然減があるのでなかなか増やすのは大変なのですが、ちょっと増えそう程度を維持しています。青ヶ島は実は2023年がベビーラッシュで4人生まれたので、全国の自治体でたぶん一番出生率が高い自治体になりました。このように、人口が増えるというのが一つめ。もうひとつは、2024年に村長選があったのですが、DAOを比較的理解している人が当選しました。接戦ではあったのですが、新しい移住者を増やそうというのが、村長が当選するひとつのきっかけになっていたらいいなと思っています。
石戸:視聴者からこのような質問も来ています。
「日本の合同会社型DAOの推進力は組織形態ではなく、結局のところリーダーの推進力に依存するのではないかと見えるのですが、岡部さんはどのように考えていますか。」
これまでも中央集権型ではない組織を作るチャレンジは歴史的にも何度もありました。しかし、最後は中央集権的になるということを繰り返してきた気がします。DAOの色々なプロジェクトを推進するなかで、岡部さんはどのように捉えていますか。
岡部:DAOに向いたリーダーと向かないリーダーはいると思います。DAOに向いたリーダーがいないと推進できないと思います。DAOに向いたリーダーというのは、最初の立ち上げの時期は引っ張るけれど、長期的にはずっとやり続けるつもりはなく、意思決定は投票でやるという人だと思います。
最初の立ち上げの時期に面倒くさいことをやるという人がDAOのリーダーに向いていると思います。そういう人がいれば、比較的順調に立ち上がります。そういう意味でリーダーの推進力に依存するのですが、最終的には投票で運営される組織を良しとするリーダーがいるかどうか。これは大事だと思います。
石戸:いくつかの自治体で、DAO的な運営を導入する取り組みは始まっています。面白い事例や成功事例について教えていただけますか。
石戸:これからDAOの広がりのためには、成功事例が増えることが重要です。成功に導くために必要なエッセンスはなんでしょうか。
岡部:合同会社型DAOは2024年の4月に始まったばかりなので、成功例はまだ出ていないと思います。一方でまだしっかり取り組めているわけではないけれど、DAOがうまくいっているプロジェクトでは面白いのがいくつかあります。山古志DAOは有名で色々な人が話していますが、そこから派生して牛の角突き祭りDAOも出てきていて、牛を買うところまでできるらしいです。普通は、外から行くと祭りの牛は買えないと思うので、だいぶ溶け込んでいるし、面白いなと思っています。今までできなかったことができるようになる、あるいはスピードが速くなる、認めてもらうまでの期間が短くて済むというところがDAOにはあるのではないかと思っていて、正直、相性がいいと思っています。
岡部:まだ答えは出ていないのですが、プロジェクトが成功するには雰囲気がすごく大事だと思います。新しい人が入りやすい雰囲気です。お金を出してNFTを買って入ってきても、嫌な思いをすると出ていって他のDAOに移ってしまうと思います。良い雰囲気を作れているかは大事だと思っています。この雰囲気作りというかファシリテーションはまだ自動化が難しいのではないかと思います。
石戸:良い雰囲気を作るファシリテーション能力があるリーダーも大事ということですね。次にこのような質問も来ています。
「地方自治体の運営と非常に親和性が高いというお話でしたが、地方自治体においてDAO化を進めることで得られる最も大きなメリットは何だと考えますか。またその一方で最大のチャレンジは何だと考えていますか。」
岡部:一番のメリットは、複数の利害関係者の意見を調整しやすいところだと思います。従来の議会では住民が1人1票あるいは議員が1人1票という形でプロセスが進んで決議されて決まるわけですが、そうすると、ふるさと納税をする人や通勤している人など関係人口と言われる人たちの意見が通りにくいです。それに対してDAO化を進めると、ふるさと納税している人や通勤している人、旅行で行く人などが意見を届けやすくなり、そして自治体もそれを取り入れた行政をやりやすくなります。これが最大のメリットだと思います。
チャレンジとしては、今まで利権を持っていた人からすると余計なことをするなということは当然、あり得るわけです。青ヶ島でも、人口を増やさないで無人島になってしまったら、先祖代々苦労して維持してきたコミュニティが失われてしまうと考える人もいるし、別に今住んでいる人が幸せならそれでいいのではないかという考えの人もいます。イノベーションをしたいという革新側の人と、現状維持の方がいいという考えの人は、どのようなコミュニティでも必ずいると思います。
石戸:今まで意見が通りにくかった方々の意見も届けられるようになるという話がありましたが、このような質問も来ています。
「DAO化によって自治体の財政運営がどのように変わると考えていますか。特に予算の配分や公共サービスの提供に関するプロセスにどんな影響が出ると予想されますか。」
確かにそこの部分に関して変化が起こる可能性はあると思いますが、いかがでしょうか。
岡部:山口県に周防大島という島があります。お金持ちが複数移住したことによって税収が上がったという報道があったように、独自財源ができたのです。DAOには今までできなかったことができるようになる可能性があるので、今後はDAOを取り入れてお金持ちの移住を促す動きが起きると思っています。
また、ふるさと納税の競争がより健全化すると思っています。今までは返礼品のパーセントで勝負して、ポータルサイトのランキングで争う形になっていたので、本当に自治体の改善になっているのかと疑わしい事例もあったのですが、競争がより健全になるのではないかと思っています。公共サービスの提供という意味では、今まで公共サービスでは賄いきれなかった施設の運営などがDAO化されて、民間が運営していくような動きになると思います。
自治体も運営しきれない施設があるわけです。けれどなくなっては困る。例えばコンサートホールなど予算的には厳しいけれどなくなっては困るという人が、DAOで運営を引き継いでいくという流れになると思います。
石戸:次にこのような質問が来ています。
「今まで実現が難しかったことが実現できるようになるということですが、実現が難しかった新しいサービスやプロジェクトで具体的にどんなことが実現可能となりましたか。」
公共施設の維持の話がありましたが、他の事例はありますか。
岡部:空き家や廃校など、インフラの有効活用はDAOと相性が良いという話は各地から聞いています。例えば廃校のプールで陸上養殖をするといった事例もあります。比較的入りやすいし収益も早く上がりやすいと思います。
石戸:このような質問も来ています。
「今までの話を伺うと、これまで入っていなかった方々も含めての意思決定が可能になると思うのですが、その意思決定の質を担保するために行っている工夫があれば教えてほしいです。」
岡部:これは情報を公開することに尽きます。情報公開されていない状態で意思決定するのは、サイコロを投げることにしかならないと思います。情報が見える化されていないと、意思決定の精度は上がらないです。みんなで意思決定するのだから、みんなに情報を見せるというところで、今までの組織よりは透明性が高いし、やりがいを感じる人もいると思います。
石戸:これまではうまくいっている話を聞いてきました。しかし、新しい仕組みが入る時に必ずしも全てがうまくいくわけではないので、失敗事例からも学びたいです。失敗しそうなやり方、もしくは留意が必要な点を教えていただけますか。
岡部:DAOは誰でも入れるのがいいところですが、ある程度、何をするか決まるところまでは少人数で話しておかないとならないでしょう。つまり、いきなり100人集まって自分がやりたいことを提案するのはなかなか難しいと思っています。変な提案をする人が出てくると、このコミュニティは質が低いとなって、いいアイデアを持っている人が脱してしまう傾向があると思います。だから、やりたいことをまずしっかり固めるのは比較的少人数で実施し、コンセプトが固まった後の集まったお金をどう使うかやお金を誰からどうやって集めるかについては、少しでも多くの人の意見を聞いてもうまくいくと思っているので、人を集めるタイミングは大事だと思います。
石戸:DAOにおいても複数の多様な方が意思決定に関わってくる以上、コンセプトを明確にすることは、重要になってくると思います。先ほど、規制緩和の話がありましたが、このような質問が来ています。
「DAOによる自治体運営が進むなかで、伝統的な行政プロセスとの調整や既存の法律との整合性をどのように保っていこうと考えていますか。特にスピード感があるものを取り扱う場合、どのように迅速に進めているのかについて知りたいです。」
既存のやり方との軋轢が起こることもあるかと思いますが、いかがでしょうか。
岡部:地方自治法はかなり柔軟な作りになっていて、住民が合意すれば議会を廃して町村総会で1人1票で決めることも認められているので、今の法律のままでもかなり自由度が高いことができると思っています。ただ、調整というのはどこの組織でもありますし、政治というのはほぼ調整ですから、そう考えると人数が少ないところでやるのが本当に早いと感じています。人数が多ければそれだけ調整する人が増えるので、例えば1%の人と調整しなければいけないとして、人口が10万人だと1000人と調整しないといけないのですが、160人だったら1人か2人と調整すればいいので、とても早いです。そういうこともあって、小さい実験をするには青ヶ島がいいと思って青ヶ島に移住しています。
石戸:岡部さんに関する質問もたくさん来ています。
「なぜDAOをやろうと思ったのですか。また、新しい情報をどのようにインプットして実行に移しているのですか。」
岡部:DAOというより分散型組織は関心がありました。10年前くらいからイングレスというゲームをやり込んでいまして、その時に中央集権型組織がとにかく弱かったんですね。命令が行き届かないと右往左往して、戦いになると弱いというのを実感しました。対して分散型組織が強かったです。だから、会社も分散型組織になっていくだろうなと、そういうアプローチから分散型組織に興味を持ちました。今の会社は2019年に起業したのですが、その時に分散型組織の良さを活かした会社運営をしたいと思って意識的に取り入れて運営しました。それが、わりとうまくいき、やはりDAOは可能性があるなと思い、研究を始めたという流れです。
石戸:その可能性ということで、このような質問も来ています。
「将来的に他の自治体や国レベルで同様のモデルが採用される可能性について、岡部さんのご意見を聞きたいです。」
岡部:私が可能性を感じているのは海上都市です。海上都市の国はまだ国連に加盟しているところはないのですが、陸地には限りがあるので今後、海にどんどん進出していくと思っています。DAOで運営する海上都市ができると思っています。先ほどCityDAOも紹介しましたが、陸上の土地を買ってDAO的に運営する自治体はすでに作れると思います。最終的には、外と隔離されている方が運営しやすいと思うので、海上都市に可能性を感じています。
石戸:ちょっと視点は違うのですがこのような質問も来ています。
「まだ手を伸ばせていないけれど、ここから先チャレンジしてみたい領域や産業はありますか。」
岡部:今手を伸ばし始めているところでは、農業や漁業など一次産業でトークンを活用してお金を集め、そのトークンを持っている人が作物やお肉や魚を受け取れるという仕組みです。あと金利のアップデートはしたいと思っています。例えば100万円預けて1%の金利だと1万円が振り込まれるわけですが、これをアップデートして、100万円預けていると1万円~2万円分の魚やお肉を受け取れるという世界は来るのではないかと思っています。そのようなものが一次産業で実現できるのではないかと思い、実験しています。
石戸:一次産業のDXという視点からも非常に興味深いです。すでに水産業の分野で実績を上げていらっしゃるので、他の領域でも期待したいです。これまで国内の話が多かったのですが、海外でのDAOに関する浸透度や動きについても教えて下さい。
岡部:先だってDAO TOKYOというイベントに行ってきました。海外のDAOのファウンダーも来ていたので、少し話をしました。面白いと思ったのは、マーシャル諸島が国レベルでDAOの誘致をやり始めているようです。タックスヘイブンと言われる国々がファンドを誘致したような形で、島嶼部でDAOを誘致する動きが、海外ではかなり出てきています。やはり島は可能性があるのだなと思います。DAOの本拠地は海外の島に置いて、実際の活動は日本支部という形で、日本で行うという人たちが増えてくるのではないかと感じています。日本はどうしても税金が高いので、Web3系の人は海外に移住しがちなのですが、そういう人たちにとってDAOを活用する動きがもっと強まりそうだと思っています。
石戸:最後に、岡部さんの今後の抱負についてお聞かせ下さい。
岡部:今、JPYC自体はIPOを目指しています。IPOをした場合、創業者なのでけっこうなお金が入ってくると期待しているのですが、それを全部DAOに回して、先ほど話した海上都市を実現できると面白いと妄想しているのが最近一番楽しい時間です。
皆さんへのメッセージとしては、DAOというのはうまく使うと既存の会社でも効率的に運営できる可能性があるということです。自分たちの会社でやると連結決算などはややこしくなるのですが、面倒なところはDAOで外出しして、自分はDAOの1メンバーとしてNFTを持っておくような形の関わり方をしておくと、既存の組織とDAOは融合が進むのではないかと思います。ぜひ、みなさんも就職した時などに活かしていただければと思っています。
石戸:ありがとうございます。MITメディアラボでお世話になった先生たちがおっしゃっていて大事にしている言葉が、「Think Big」と「Imagine & Realize」です。岡部さんからまさにその2つを感じました。新しい社会を実現するための大きな構想と、それを机上の空論で終わらせず、ひとつひとつ形にしていく実行力の強さを改めて感じました。
以上
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