EVENT REPORT

B Lab Online Salon

B Labは2024年8月23日に、岡部典孝氏(JPYC株式会社代表取締役、一般社団法人ブロックチェーン推進協会理事)を招いて、「DAOで実現する新しい地域おこし」と題したオンラインサロンを開催しました。サロンの前半では、岡部氏が青ヶ島で実践しているDAO(自律分散型組織)を活用した地域おこしについてお話しました。後半ではB Lab所長の石戸奈々子をファシリテーターに、視聴者からの質問を織り交ぜながら質疑応答が行われました。その模様を紹介します。

Q&A

また、ふるさと納税の競争がより健全化すると思っています。今までは返礼品のパーセントで勝負して、ポータルサイトのランキングで争う形になっていたので、本当に自治体の改善になっているのかと疑わしい事例もあったのですが、競争がより健全になるのではないかと思っています。公共サービスの提供という意味では、今まで公共サービスでは賄いきれなかった施設の運営などがDAO化されて、民間が運営していくような動きになると思います。

「今まで実現が難しかったことが実現できるようになるということですが、実現が難しかった新しいサービスやプロジェクトで具体的にどんなことが実現可能となりましたか。」

岡部空き家や廃校など、インフラの有効活用はDAOと相性が良いという話は各地から聞いています。例えば廃校のプールで陸上養殖をするといった事例もあります。比較的入りやすいし収益も早く上がりやすいと思います。

石戸このような質問も来ています。

「今までの話を伺うと、これまで入っていなかった方々も含めての意思決定が可能になると思うのですが、その意思決定の質を担保するために行っている工夫があれば教えてほしいです。」

岡部これは情報を公開することに尽きます。情報公開されていない状態で意思決定するのは、サイコロを投げることにしかならないと思います。情報が見える化されていないと、意思決定の精度は上がらないです。みんなで意思決定するのだから、みんなに情報を見せるというところで、今までの組織よりは透明性が高いし、やりがいを感じる人もいると思います。

石戸これまではうまくいっている話を聞いてきました。しかし、新しい仕組みが入る時に必ずしも全てがうまくいくわけではないので、失敗事例からも学びたいです。失敗しそうなやり方、もしくは留意が必要な点を教えていただけますか。

岡部DAOは誰でも入れるのがいいところですが、ある程度、何をするか決まるところまでは少人数で話しておかないとならないでしょう。つまり、いきなり100人集まって自分がやりたいことを提案するのはなかなか難しいと思っています。変な提案をする人が出てくると、このコミュニティは質が低いとなって、いいアイデアを持っている人が脱してしまう傾向があると思います。だから、やりたいことをまずしっかり固めるのは比較的少人数で実施し、コンセプトが固まった後の集まったお金をどう使うかやお金を誰からどうやって集めるかについては、少しでも多くの人の意見を聞いてもうまくいくと思っているので、人を集めるタイミングは大事だと思います。

石戸DAOにおいても複数の多様な方が意思決定に関わってくる以上、コンセプトを明確にすることは、重要になってくると思います。先ほど、規制緩和の話がありましたが、このような質問が来ています。

「DAOによる自治体運営が進むなかで、伝統的な行政プロセスとの調整や既存の法律との整合性をどのように保っていこうと考えていますか。特にスピード感があるものを取り扱う場合、どのように迅速に進めているのかについて知りたいです。」

既存のやり方との軋轢が起こることもあるかと思いますが、いかがでしょうか。

岡部地方自治法はかなり柔軟な作りになっていて、住民が合意すれば議会を廃して町村総会で1人1票で決めることも認められているので、今の法律のままでもかなり自由度が高いことができると思っています。ただ、調整というのはどこの組織でもありますし、政治というのはほぼ調整ですから、そう考えると人数が少ないところでやるのが本当に早いと感じています。人数が多ければそれだけ調整する人が増えるので、例えば1%の人と調整しなければいけないとして、人口が10万人だと1000人と調整しないといけないのですが、160人だったら1人か2人と調整すればいいので、とても早いです。そういうこともあって、小さい実験をするには青ヶ島がいいと思って青ヶ島に移住しています。

石戸岡部さんに関する質問もたくさん来ています。

「なぜDAOをやろうと思ったのですか。また、新しい情報をどのようにインプットして実行に移しているのですか。」

岡部DAOというより分散型組織は関心がありました。10年前くらいからイングレスというゲームをやり込んでいまして、その時に中央集権型組織がとにかく弱かったんですね。命令が行き届かないと右往左往して、戦いになると弱いというのを実感しました。対して分散型組織が強かったです。だから、会社も分散型組織になっていくだろうなと、そういうアプローチから分散型組織に興味を持ちました。今の会社は2019年に起業したのですが、その時に分散型組織の良さを活かした会社運営をしたいと思って意識的に取り入れて運営しました。それが、わりとうまくいき、やはりDAOは可能性があるなと思い、研究を始めたという流れです。

石戸その可能性ということで、このような質問も来ています。

「将来的に他の自治体や国レベルで同様のモデルが採用される可能性について、岡部さんのご意見を聞きたいです。」

岡部私が可能性を感じているのは海上都市です。海上都市の国はまだ国連に加盟しているところはないのですが、陸地には限りがあるので今後、海にどんどん進出していくと思っています。DAOで運営する海上都市ができると思っています。先ほどCityDAOも紹介しましたが、陸上の土地を買ってDAO的に運営する自治体はすでに作れると思います。最終的には、外と隔離されている方が運営しやすいと思うので、海上都市に可能性を感じています。

石戸ちょっと視点は違うのですがこのような質問も来ています。

「まだ手を伸ばせていないけれど、ここから先チャレンジしてみたい領域や産業はありますか。」

岡部今手を伸ばし始めているところでは、農業や漁業など一次産業でトークンを活用してお金を集め、そのトークンを持っている人が作物やお肉や魚を受け取れるという仕組みです。あと金利のアップデートはしたいと思っています。例えば100万円預けて1%の金利だと1万円が振り込まれるわけですが、これをアップデートして、100万円預けていると1万円~2万円分の魚やお肉を受け取れるという世界は来るのではないかと思っています。そのようなものが一次産業で実現できるのではないかと思い、実験しています。

石戸一次産業のDXという視点からも非常に興味深いです。すでに水産業の分野で実績を上げていらっしゃるので、他の領域でも期待したいです。これまで国内の話が多かったのですが、海外でのDAOに関する浸透度や動きについても教えて下さい。

岡部先だってDAO TOKYOというイベントに行ってきました。海外のDAOのファウンダーも来ていたので、少し話をしました。面白いと思ったのは、マーシャル諸島が国レベルでDAOの誘致をやり始めているようです。タックスヘイブンと言われる国々がファンドを誘致したような形で、島嶼部でDAOを誘致する動きが、海外ではかなり出てきています。やはり島は可能性があるのだなと思います。DAOの本拠地は海外の島に置いて、実際の活動は日本支部という形で、日本で行うという人たちが増えてくるのではないかと感じています。日本はどうしても税金が高いので、Web3系の人は海外に移住しがちなのですが、そういう人たちにとってDAOを活用する動きがもっと強まりそうだと思っています。

石戸最後に、岡部さんの今後の抱負についてお聞かせ下さい。

岡部今、JPYC自体はIPOを目指しています。IPOをした場合、創業者なのでけっこうなお金が入ってくると期待しているのですが、それを全部DAOに回して、先ほど話した海上都市を実現できると面白いと妄想しているのが最近一番楽しい時間です。

皆さんへのメッセージとしては、DAOというのはうまく使うと既存の会社でも効率的に運営できる可能性があるということです。自分たちの会社でやると連結決算などはややこしくなるのですが、面倒なところはDAOで外出しして、自分はDAOの1メンバーとしてNFTを持っておくような形の関わり方をしておくと、既存の組織とDAOは融合が進むのではないかと思います。ぜひ、みなさんも就職した時などに活かしていただければと思っています。

石戸ありがとうございます。MITメディアラボでお世話になった先生たちがおっしゃっていて大事にしている言葉が、「Think Big」と「Imagine & Realize」です。岡部さんからまさにその2つを感じました。新しい社会を実現するための大きな構想と、それを机上の空論で終わらせず、ひとつひとつ形にしていく実行力の強さを改めて感じました。

以上