Activity Report

B Lab広島 拠点便り

2024.1.11

B Lab 広島

B Lab広島では、水産業をより効率的に無駄なく運営できるようにするために、IoTを取り入れたデータドリブンによる経営モデルの構築を目指し研究を行っています。今回は、B Labオーガナイザーの川崎さんに、水産事業活性化プロジェクトの活動・成果報告を伺いました。


 

B Lab広島では、地域水産事業者活性化のためのプロジェクトを行いました。

このプロジェクトは、広島県の宮島の対岸に位置する濱本水産株式会社と共同して、ムール貝の新しい養殖方法の確立と経営手法のデジタル化を目的として、地元水産事業者の活性化を目指すプロジェクトです。ムール貝の漁獲量が減少していることをきっかけとして、本プロジェクトが始動しました。

濱本水産でのムール貝養殖は、垂下式養殖を採用しています。垂下式養殖では、ホタテの貝殻をロープにつけて、海流から流れてくるムール貝の稚貝を付着させ養殖を行っています。回収するときは専用のクレーンを使用して引き上げ作業を行います。そのため、成長のばらつきがあったとしても再度養殖を行えず、中間育成ができないことが課題でした。これまでは、網状の袋に出荷レベルに達していないムール貝をまとめて再養殖を行っていましたが、一時的な措置として行っていたこともあり、効果はあまり見られていませんでした。

垂下式養殖では、引き上げ、ムール貝の回収、洗浄、選別といった工程を10人〜12人で行っているため、非常に多くの時間とコストを要していました。

加えて、調査によって食害問題が発生していること、餌となるプランクトン量が海域によって違うことが明らかになりました。

そのほかに、経営手法において、FAXや紙媒体によって行っていたため、仕入量・市場相場・販売価格の把握に時間がかかり、販売機会を逃しているケースや市場相場より安価で販売しているケースがあることがわかりました。

そこで、現在抱えている課題の原因を「食害」、「水質問題」、「生産工程」、「経営体制」の4つの仮説として設定し、これらの課題を解決するために、ムール貝の新規生産システム、データ主導型管理システムの導入を行いました。

新規生産システムとは、カゴを使用する養殖手法です。牡蠣のシングルシード養殖で使用されているカゴを使用しています。メリットとして、食害対策ができること、出荷負荷を抑えられること、生産管理がしやすいことが挙げられます。

データ主導型管理システムはこれらのカゴにカメラセンサーを取り付けて成長状況と海洋センサーからの海洋データをもとに生産と販売の予測を行うシステムです。同時にアナログだった経営手法のデジタル化を実施しました。

結果、カゴによってムール貝は死滅することはなく、カゴを使用して中間育成をすることが可能であることがわかりました。

データ主導型管理システムについては今後も開発と改良を進めていく必要があるものの、デジタル化を進めることができた結果、実際に従業員がiPadを使って生産の管理をするようになりました。

本プロジェクトの結果、システムの導入をしたことで、自社流通を試みる動きや海外への市場展開を目指すきっかけに繋がりました。一方で、コスト面から現段階では小規模での実施にとどまっています。また、本プロジェクトで餌となるプランクトンの分布が海域だけでなく、水深によっても違いがあることが明らかになりました。

今後の展望として、さらに実施エリアを広げていくと同時に、プランクトン分布の海洋データを組み込むことで、さらにシステムの精度を上げていき、長期的、段階的に養殖場の最適化を目指していく方針です。

2024.1.11